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UR_RIGHT_LAB

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エピローグ

エピローグ

「このエピローグって何だい?」
「物語の締めくくりは小説には付き物ですよ」
「それはまあ、……そうだな」
 シロイは肩をすくめる。
成果物短編小説は分からなくもないが、私たちの紹介が載っているのは何故だい?」
「人物紹介は小説には付き物ですよ」
「それに君の『伊藤右貴』という名前、聞き覚えがある」
 彼女は顎に手を当てしばらく考えたのち、後方の扉に向かって「助手ー!」と叫んだ。しばらくして「はいはい」と眼鏡の男が入ってきた。
「面接は終わったんですか?」
「終わってはいない」
「じゃあどうして呼んだんですか?」
「君名前なんだっけ」
「え? 『伊藤右貴』ですが?」
「ふむ」彼女は目を閉じ頬に手を当てた。
「彼が就職希望者ですか? 何だか僕と似た顔をしていますね、ドッペルゲンガーですか?」
 眼鏡の男は覗き込むように私を見た。
 とりあえず状況を整理しよう、とシロイが言った。
「我々のやり取りは寸分違わず、このサイトに小説という形で記されている」
「気味が悪いですね」
「彼と助手は、同姓同名瓜二つの人間である」
「変装しているのかも」
「そしてこのサイトは『ポートフォリオ小説』だと明記されている」
「つまり、このサイト自体が小説だと」
 シロイは助手に顔を向けるとひらひらと手を振った。
「いや違う、我々のいるこの場こそが小説なんだ」
 ん、と助手は首を傾げる。
「つまり、僕たちが小説の一部だとでも言うんですか?」
「助手、多分君は彼がこの小説の登場人物として書いた『彼自身』なんじゃないか?」
「まあここが小説とするなら、僕は彼と瓜二つですから、その可能性は高いですけど。もし僕が小説中の彼ならですよ、私は博士の事が好きですから、博士は彼の書いた理想の異性ってことになりますよ?」
「……まあ、その話は置いておこうじゃないか」
 私は彼女らのやり取りをじっと見つめながら手を動かす。
「とすると、僕たちの目の前の彼は一体何者なんですか? 小説内の彼は『助手』である僕ですから、目の前の彼は小説の外にいないとおかしい話です。彼が小説内にいると、僕の存在意義がありません」
「彼はちゃんと小説の外にいるんだよ、このディスプレイを通して」
 彼女らはこちらを振り向いた。
 私はキーボードを打つ手を止めない。
「このディスプレイもいわば小説の一部な訳ですけど、そしたら彼もまた小説の中にいるのでは?」
「そうだよ」とシロイは言った。
「彼は確かに小説内の人物だが、我々と存在している階層が違うんだ」
階層?」
「我々は、小説内の彼が書く小説、いわば作中作の登場人物なんだ」
「僕たちの方が次元が下にあると?」
「そう、我々の階層の上に、彼の階層があり、その上にこのサイトを閲覧する人間の階層がある」
「じゃあ、小説内の彼、もとい僕のオリジナルはどこにいるんですか?」
「うーん、我々がそのことに言及すると、オリジナルである伊藤右貴は我々がいる作中作の階層に登場人物として降りてきてしまうから、どうやってもオリジナルを特定することはできないね。階層が無限になってしまう」
「変な話ですね。じゃあ、僕も小説が趣味なので作中作中作を書いてみましょうかね」
「ややこしいことをしないでくれ」
 ため息をついた彼女はディスプレイ越しに私を指差した。
「君もいい加減『エピローグ』を書き終えたらどうだい?」
 そうこられては仕方がないと、私はブラウザとエディターを閉じ、エピローグを書き終えたことにした。
 肩を揉んでいると「助手ー!」と私を呼ぶ声がした。
 私は仕方なく博士の元に向かった。

伊藤右貴いとうゆうき

1995年、愛知県生まれ。名古屋市立大学芸術工学部情報環境デザイン学科所属。眼鏡以外に何のアイデンティティーも持たない大学生。小林泰三森見登美彦米津玄師小林大吾トクマルシューゴが好き。
大学ではプログラミングを中心としつつ様々な分野をつまんでいる。新しい技術などに興味がある。
連絡先:urrightlab→gmail.com
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