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テキスト堆積場

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缶に詰め込んだ月日を

缶に詰め込んだ月日を

 人通りのない海岸沿いに立つ自動販売機で、私はコーンポタージュを買った。久しく飲んでいなかった気がする。
 手袋をはめていても、その熱は伝わってきた。
 隣の香月日乃は何を買うでもなく、黙ったままだった。
 よく振ってから蓋を開け、一口含む。久々に飲むそれは、ここ最近の食事よりもよっぽど美味しく感じた。
 回しながら飲むと中身が混ざって綺麗に飲めるんだよ、とかつて日乃が言っていたことを思い出す。

 真っ暗な中、缶を回しながら進んで行く。
 先を行く日乃は、私を置いてしばらく進んでは止まり、私が追いつくのを待っては進むを繰り返していた。
 その様子を見ながら、私はふと懐かしい記憶が蘇った。
 数年前、日乃と出会ったばかりの頃である。
 当時から無口であった日乃は自動販売機でコーンポタージュを買うと、珍しく自分から口を開いた。
「タージュってどういう意味か知ってる?」
「ポタージュじゃなくて?」
 そう尋ねると彼女は首を横に振った。
「タージュはドイツ語で月日を意味するんだよ。月日が缶の中に詰められているの」
 あれがどういう意味かようやく分かった。
 彼女は自分自身のことを言っていたのだ。

 道が勾配がつき始め、私は日乃に手を添えながらのぼる。
 缶を回しながら、残り少なくなったコーンポタージュを全て口に含む。
 崖の上に到着した私は、軽くなったそれを覗き込んだ。
 一粒だけコーンが残っていた。
 私は缶を崖の下へと蹴り入れた。
 日乃は大きなしぶきをあげて着水する。
 私は手袋を外すと、沈んでいくドラム缶に向かって投げ捨てた。
 日乃を載せたドラム缶は、時間もかからず海の底へと姿を消す。
 私は上を向きそれの底を叩きながら来た道を戻った。

お題「コーンポタージュ」

伊藤右貴いとうゆうき

1995年、愛知県生まれ。名古屋市立大学芸術工学部情報環境デザイン学科所属。眼鏡以外に何のアイデンティティーも持たない大学生。小林泰三森見登美彦米津玄師小林大吾トクマルシューゴが好き。
大学ではプログラミングを中心としつつ様々な分野をつまんでいる。新しい技術などに興味がある。
連絡先:urrightlab→gmail.com
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